「約束」涙の君を【完】





か、彼女……‼


私は急いで思いっきり首を振った。




「そんなに否定しなくても……な?祥太?」



あぁ………違う。そういう意味じゃなくて……



祥太をちらっと横目で見たら、祥太はふっと笑って下を向いてしまった。



「手を繋いでいるのに、彼女じゃないの?」



あっ!
女の子にそう言われて、バッと手を離した。



なんか気まずい……


その時、ドーンとまた花火の音がした。





「と、とりあえず花火が見える所まで行ってみるか。

祥太は、俺が手を繋いでやるから、な?」


賢人くんは、祥太の手を引っ張った。



「……んだよ、やめろよ賢人」


祥太は嫌がりながらも、引っ張られて行ってしまった。



「うちらも行こっか。


そういえば名前聞いてなかった。

なんて呼べばいい?


私のことは、みんな『あおい』って呼んでいるから」


前を見ると、祥太たちは人ごみに紛れて見えなくなってしまっていた。


どんどん人が通り過ぎて行く。


どんどん人が追い抜いて行く。


とにかく、落ち着こう。

えっと、名前……

自分の名前を言わなくちゃ。



「………っ……」




やっぱり出ない。


私は首を抑えた。



なんか、ドキドキする。

チラチラと人の視線を感じる。



落ち着こう、落ち着け、落ち着け……




私は深く息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。



私は、私は……




私は思い切ってポーチからボードを出した。



「え?何?」



びっくりされても、

今の私には、こうするしかない。



【名前は、水沢優衣

今は声が出ないけど、そのうち出るようになるから】



ボードをあおいに渡すと、出店の明かりに照らして文字を呼んだ。


「そうなんだ……」



ボードを返して来たから、


私は文字を消してまた書いた。


【2学期から東高校に転入するの】



「あ、もしかして東京から来た子?」