「お前、睨むなって。ぶっさいくな顔がさらに不細工に、」
そう言いかけた瞬間、足をおもいきり踏まれた。「いってぇ!」先程背中を叩かれたときとはくらべものにならないくらいの痛みに、思わず涙目になる。
「ん?川中?」
ふと声が聞こえて涙目のまま振り向けば、驚きで目を見開いた教師の姿があった。
「川中のお兄さん?」
「あ、ハイ。」
「連れて来てくれたんですか!!いやぁよかったよかった!川中、一緒に授業を受けよう!皆待ってるぞ!」
「...。」
動こうとしない胡桃の両肩を後ろから掴み、そのままぐいぐいと教室の中へと張っていく。俺は愛想笑いを浮かべてひらひらと手をふり見送った。
「お兄さんもよろしければ授業を見ていてください。」
「はーい。」
胡桃は戸惑いながらも自分の席に座ると、鞄を置いた。その瞬間、クラス中の視線が胡桃に注がれる。
「あー!川中さんだー!」
突然明るい声がクラス中に響き渡った。
「入学式以来だねー!」
「川中、お前なにずっとサボッてたんだよ。」
それを合図に生徒数人が胡桃のまわりを取り囲む。あれ、なんかすっげーフレンドリーじゃんこのクラス。
戸惑いながらもなんとか受け答えしている胡桃を見て、「普通に話せるじゃん」と思い少しだけ嬉しくなった。
先生はその光景を見て嬉しそうに笑い、再び俺の元に来て小声で話しかけてきた。
「ウチのクラスは学年一仲がいいんですよ。こっちは受け入れ態勢万全なんですけどね。川中に、学校に来る気が起きればいいんですけど。」
「...そーっすね。でも、学校に行けない明確な理由があるわけじゃないみたいで、やっぱり難しいと思います。」
「そうですか。でも、ゆっくり、少しずつでいいから学校に居られる時間を増やしていけたら、いいなぁ。」


