学校に近づく度に、胡桃の気分は更に急降下していく。気づかないふりをして学校の来客用駐車場に車をとめて、俺は胡桃を外に連れ出すために後部座席のドアをあけて腕を掴んだ。
「おりろ。」
「ッ...。」
胡桃の瞳が、不安と恐怖で揺らいでいる。
「胡桃。」
低く、威圧感のある声で呼べば俯きぎゅっと拳を作った。最後の抵抗のようだ。俺は気にせず胡桃の腕を掴み引き寄せるとそのまま抱え込む。
さすがに恥ずかしかったのか、ジタバタと暴れだした。
「逃げないならおろしてやるよー。」
そう言えば胡桃はこくこくと頷く。俺はそれを信じて妹を降ろす。妹は諦めた様に俺の後ろをついてきた。
そのまま職員玄関から仲へと入り、事情を話すと事務員のおばさんは人のよさそうな笑みを浮かべて胡桃に視線をうつす。
その視線が怖かったのか、胡桃はおばさんの視界に入らないように俺の後ろに引っ込んだ。
「あら、恥ずかしいのかしら?」
「そうなんすよ。恥ずかしがり屋なんだよなー?」
俺はフォローのつもりでそう言ったのだが、気に障ったのか胡桃は俺の背中におもいきり拳をぶつけてきた。ゴ、と鈍い音が響く。痛い。
「じゃ、教室行くか。」
おばさんに頭を軽くさげて胡桃の腕を掴んで教室へと向かう。場所は確か一階の奥だった気がする。(前に母さんが言っていた)
一番奥の1-3と書かれた教室を廊下から覗き込む。どうやら一限目が終わったあとの休み時間らしく、騒がしい。
「ほら、今のうちに行って来い。」
ぽん、と胡桃の背中を叩くと首を左右にふって否定する。
「大丈夫だって。昼まででいいから授業でようよ。俺、ここで見てるから。」
「...。」
それでも不満があるのか、ギロリと俺を睨みつけてくる。


