「レンちゃん、何で
…俺と結婚してくれへんの?
俺、真剣やねんけど。」

「いや、だって…」

つないだ手、互いの視線は
交わる事のないまま、
視線の先、シンメトリーな
花壇と芝生の緑の額縁の奥の
新郎新婦のモデルに注いだまま。

反射板を持った撮影スタッフが、
角度を調整しているのが見える。

頑なに自分の気持ちを
口にする事が無かった元上司やし、
サプライズの一つや二つ
ぶっこんだくらいで、凝り固まった
その意志が揺らぐとは
思ってなかったけど。

正直、ここまで
強固やと思わんかった。

半時間前、二人きりになった
クラシックなソファセットで、

『レンちゃん、俺と結婚して。』

戸惑うレンちゃんに、
開口一発目、正気を
取り戻す前に…と、
告げた積年の想いは。

ティーサロンのど真ん中、
人目の有無も考えれば、
彼女ならお茶を濁すと――――

是とも否とも取れる
回答をすると、
予測していたのに反して。

『…むっ…無理でしゅ。』

音量こそ絞り気味やったものの
…速攻で、噛みながら
拒絶されてしまった。

でも…

今日ばかりは、俺も
レンちゃんの気持ちばかりを
尊重するつもりはない。

俺は、今日、積年の想いに
決着をつける。