「笑うと可愛いですね。」


突如、かけられた声に驚き、
声のする方向を見る。

…随分…小さい女性だな…

いや…こんなものか?

自分の周りにいる人たちが
平均より身長が高いから
どうも小人に見える…

「何か?」

警戒して用件を尋ねれば

「ごめんなさい!
驚かせましたね。

私、よく同じ車両に
なるんですけど…
一時見なくなって…また
見かけるようになったら
表情が豊かになってて…
何だか嬉しくなって…」

周りを気にしながら小声で、
そんな事を話し出す女性に
驚き青ざめる。

…俺は、気づかない内に
百面相でもしていたの
だろうか… 

そもそも、誰が乗っているか等
考えもしなかった。

「あの…」

「はい?」

「怪しかったですか?」

車窓に視線を移し尋ねれば

「いいえ!違います!きっと
大事な人の事を考えて
いるんだなって…解る
良い表情でした。

そう思ったら、つい嬉しくて
声をかけてしまって…
すみませんでした。」

小さく謝って、彼女は
電車を降りていった。

この辺りの企業にでも
勤めているのだろうか。

そういえば…

以前は、
ずっと探していたんだ。


音村係長が

同じ車両に
居ないだろうかって。


そうか…

もう

探さなくなったんだな。