「係長…」

何から言えばいいのだろう。
おもむろに開いた唇からは
コレといった言葉を
紡げずにいた。

「…向こうの仕事のやり方は
身についたね?」

突如、音村係長が問う。

「はい。」

戻ってくる以上、手ぶらな
訳にはいかない。

他の同僚達にも、あちらの
企業の考え方や、ノウハウは
伝達出来るレベルには
達して来たつもりだ。

「もう…迷いはないね?」

続いて問われた
言葉足らずな質問も、
言わずとも何を指すか等
明確だ。

「もちろん、です。」

俺の迷いと意識の低さに
上司を振り回して
しまったけど…

もう、中途半端な未練は
少しも無い。

「集中して業務に
従事したいと思います。
貴重なチャンスを頂き
有難う御座いました。」

漸く、口をついた
お礼の言葉と自分の志に
そうだ…と、改めて思う。

もう、迷わない。
自分の選択を悔いたり
する事も無い。

「また、ご指導
宜しくお願いします。」

目の前に並ぶ先輩達に
気持ちをこめて
一礼した。