「うん、行っちゃうねぇ。
…レンちゃん、目擦ったら
痛くなるよ?
今日は、ちゃんと見送れた?」
しなだれかかるレンちゃんを
小脇に抱えながら問う
真月さんの声が聞こえる。
「…多分ね。…ちゃんと
泣かなかったんだよ。私。」
そんな言葉と一緒に
また鼻水をすする音がした。
“偉かったね。上司っつうのも
大変だよね…
自分の思いだけで動く訳に
行かないものね。
さて、そんなレンちゃんを労って
飲みなおしますか。”
“うん。飲む。”
…泣いてても飲むんや(笑)
“ちゃんと…三人平等に
できたと思うよ。わたし”
ふと、聞こえてきた一言に
その場を離れようとしていた足が
無意識に止まった。
“三人平等…?”
それって…平等ではない、
特別がいるって事か?
再びドアが開いて、室内から零れた
明かりが二人の後姿を、ほのかに
浮かびあがらせる。
「真月、俺、おやつ買って来る♪」
その場の空気を破るチビッ子の声が
聞こえてきて、俺は慌ててその場を
後にした。
「…聞かんほうが良かったな…」
思わず、独り言が声に漏れた…
…悶々としたまま、
行かんなあかんやんけ…
中途半端な後味の悪さを
抱きながら、グスグス
涙を流すその人を見遣り
俺は溜息をついた。



