その日

佐藤係長が、珍しく早退した。



まさか、昼間の遣り取りで
勝手に勘違いをして打撃を
受けた故だった等と、
想いもしない俺は、
いつも通りのアフターファイブを
過ごし、まさしく就寝に
つこうとしていた。


「…電話?」


こんな時間に誰だ?


怪しく光を放つスマホの画面を
じーっと見つめて、見知らぬ番号を
ひたすら眺める。


「…しつこい…。」

なかなか終わらない呼び出し音に
オズオズと端末を手に取り
開通ボタンに触れた。


『夜分にゴメンナサイ。
音村です。今、時間いい?』


……えっ?!


スピーカーから聞こえる声に
一瞬息をのんだ。


「…係…長…?」


確かめる様に思わず呼べば。


『あら?もう、寝てた?』


気遣う様な語り口調に
頬が緩む。

柏木の様に、ストレートに言わずとも
俺だって、このヒトの声は聞きたかった。


「いえ。…この番号って…」


個人携帯だよな?
後で登録しておこうなんて邪な
感情を押し遣りながら会話をつなぐ。


ヤバイ。ドキドキしてきた。


『業務外だし社用携帯電話を
使用するような、用件ではないから。』


そういって、時間も遅いし…と
音村係長は、ズバリ本題を述べた。