だいたい、係長は、朝も夜も
俺たちより早くから遅くまで
仕事しているのだから…

「そんな時間があるとは
思えない。」


朝ですら、いつもの電車で
会えない事が増えているんだ。

そんな個人的なお願い等
できるものか。

「駅前留学を推奨されるのが
せいぜいのオチだ。」


啓太の手から小六法を取り上げ
徐にページを開き戸惑う。

…なんで『婚姻』の章なんか…


「斐川くん。チャンスは
自分で作らなきゃダメだよ。
タイミングを逃しちゃダメ。

そういうの、後で後悔するんだぞ。」


あれ?後悔だから先は無いのか?
なんて、独りごちるチビッコの
言葉が重くのしかかる。


「“恋愛論”なんて…
どうでもいい。」


…そんなこと…

ないくせに…


「違うよ。俺がいいたいのは
すべてにおいて、って事。
タイミング次第で、
ゴールが変わっちゃうんだよ。

多分…斐川くん…
心当たりあるでしょ?」


また明日ねって、
クリクリの瞳を細め
啓太は、先に午後の仕事に
戻って行く。



“きっと、レンちゃんも
悔しい想い…していると
思うんだよね。”


扉を閉める前に
そう溢した呟きは

何を意味するのだろうか…