ズンズン先を行く彼女を追えば
ある会議室付近で、足が止まった。


扉が半開きのため
中の会話が聞こえてくる。

時おり、神島と斐川の声がするが
主に話しているのは、
拉致ったチビの様で、

レンちゃんを尊敬してるって。

頑張りすぎるレンちゃんを
仕事でも助けられる様にって。

見えない努力と、隠した気遣いが
大きな声ではないのに、
こちらにまで届いて来るから…


チラッと、並び立つ彼女を
見下ろして、息をのんだ。


真正面を向いたままの

彼女の頬を

スーッ…っと、

涙が一筋伝った。


彼女の手から、紙筒をとって
その手をつなぐ。

「…行こう。俺と違って
アイツら真面目やから
すぐ、戻ってくるやろ。」

そういって、その場から
連れ出したのは……

本当は、独り占め
したかったから。


息をのむほど
誰かの涙をキレイだと
思ったことは、ないから。