「だから、ここは『that』で始まる1文を訳せば、そのまま答えになるワケだ。『emigrant』ってどんな意味だ、桜庭」

「『移民』、特にここではイギリスからアメリカに渡ってきた移民を指します」






「だな。ま、あんまり受験に頻出の単語じゃないが。文脈から推測しづらい単語だからこの際覚えとけ」






ノートを取りながら、英語担当の松野先生の説明を熱心に聞く。






「英語だけは頑張るのな、唯」

“うるさい、聞き逃すから静かにしてて”





あたしの席の隣、桜庭くんの机に腰かけた雫に、心の中で忠告する。





“松野先生怖いんだから。当たって質問聞き逃してたらシャレになんないでしょ。テストもあんま良くなかったし、ちょっと本腰入れて勉強しないと”

「家事と部活しながら勉強だろ。それであの点数なら上出来だと思うけどね」

“そうやって妥協したくないから授業中になるべく頭入れてんの”





雫に霊感を授かってさらに数日が経ったけど、相変わらず「これが霊感か!」と思えるような出来事は何も起きない。





その代わりと言ってはなんだけど、声を出さずに雫と会話できるようになった。





雫いわく、「霊感を持った副作用みたいなモノ」らしいけど。






“まったく。プライバシーも何もあったもんじゃないなァ、この生活”

「だから。心が読めるワケじゃないから安心してって言ってるじゃん」






“言ってるだけじゃん”

「休憩所は憑き主のプライバシーにもうるさいの。とにかく、そういう仕組みだから大丈夫。心の中で会話は出来るけど、唯の心の中が俺に分かるワケじゃないの」






“意外としっかりしてるんだよねぇ、「休憩所」って”

「当たり前だろ。肉体がないだけで、ちゃんとした人間の集まりなんだ」





文句を言ったところで、結局雫を信じるしかないのだけど。






ま、本当でしょ、雫だし。