『もしもし』
不機嫌そうな啄くんの声が携帯からもれる。
「もしもし啄くん?」
『朱里か?』
「うん。あのね買い物に行くんだけど」
『わかった。今行く』
すぐに切れてしまった携帯を、
耳から離す。
啄くんの声以外に何も聞こえなかったから一人で居たのかな?
家に帰る途中だったのかな。
だったら悪いことをした。
そんなことを考えながら買い物に行く準備をする。
パジャマから楽なワンピに着替え、
上に薄いカーディガンを羽織る。
小さなバッグに携帯と財布、
それにECOバッグを入れる。
最近ではECOバッグがないと3円だか、
5円だか取られてしまう。
ピンポーン。
慌てて玄関の扉を開けると私服姿の
啄くんがいた。
ダメージジーンズに黒Tシャツ。
黒い革ジャンを羽織っている姿は、
やっぱりイケメン。
「ごめんね、いきなり」
顔には不機嫌とはっきり書いてある。
「いや、大丈夫だ」
無表情で言われても意味ないよ。
啄くんはバイクで来たらしい。
外に出ると真っ黒いバイクがあった。