「だ……抱きしめてくださいよ」

冗談で言ってみる。樹さんは驚いたのか、何度も目を瞬かせた。

「おかしいな。千穂ちゃんをドキドキさせるつもりだったのに……俺のほうがドキドキしてる」
「えっ、そ……そんな……!」

そんなことない。今も、私の方がドキドキさせられてるよ!

熱くなる頬を押さえていると、「店でイチャつかないで下さーい」と、加絵さんから叱られた。

ふたりで謝り、私は仕事を再開するためカウンターへ入る。すると樹さんが耳元に唇を寄せてきた。

「抱きしめるのは、あとでね」
「い、樹さん! ちょっと……」
「千穂ちゃん、一年間本当にありがとう。これからも、よろしくね」

にっこりと笑いかけられると、咎めることができなくなる。

「はい、こちらこそお願いします」

今は助けられてばかりだけど、いつか彼の心地いい存在になりたい。

そう思い、改めてこの場所 で頑張ろうと決意した。



*END*



*あとがき*

一年間、お付き合いいただきありがとうございました。
一か月に千文字程度という短文の連載でしたが、
楽しく書かせていただき、また勉強にもなりました。
読んでくださった皆様に、ほっこりと温かい気持ちが提供できていますと幸いです。

春奈真実