「なんとなく、千穂ちゃんが来るかなぁって思ってたんだよね」

樹さんは私を窓側の席へ案内しながら、得意気に言ってみせた。

「え、ど……どうしてですか?」
「俺も千穂ちゃんのことを考えていたからね。どうしてるかな、大丈夫かな、顔が見たいな……って」
「い、樹さん……っ」
「会いたいタイミングが合うって、相性がいいことだと思うんだ」

樹さんは意味ありげに微笑むと、カウンターへと入って行った。

樹さん、心配してくれてたんだ。

誰かに心配されるって結構嬉しい。しかもそれが、気になる人だから、余計に嬉しい。

頬が熱くなるのを感じていると、樹さんがコーヒーカップを片手にやって来た。

「これ、サービスのカフェモカ」

差し出されたのは、ほのかにチョコレートの香りが漂う、ホイップクリームが盛られたカフェモカ。

甘くて美味しそうだけど……。

「サ、サービスなら無料チケットのコーヒーで十分ですよ?」
「いいから、飲んで。ね?」

樹さんに笑顔で勧められると断れない。私はカップを口へ運んだ。

「……優しい味がする……」

喉を通る、温かくて甘いカフェモカが、身体の疲れをじんわりとほぐしてくれていくのを感じる。

横目で見た樹さんは、とても満足そうな顔をしていて、私の胸はトクンと大きく音をたてた。