「・・・七海」
俺は震える声で名前を呼ぶ事しかできなかった。
なんで言ってやれないんだ。
あり得ねぇ、男として。
どれだけ心の中で自分を罵ったとしてもその言葉だけは言えなかった。
「・・・離さないでよ」
「・・・っ」
「私の傍にずっといてよ」
「・・・なな、み」
俺は、
ずっと七海の傍に
いられるわけじゃない。
七海を離したくなくても、
離さなければいけない時が来る。
だから不用意にそんな約束をしたら、余計七海を苦しめる。
「ごめん、分かってるの。無理な事くらい」
七海はうずめた顔を上にあげた。
目は涙でいっぱいだ。
「樹君がいなくなっちゃう事くらい分かってる」
すっと立ち上がり、俺に背を向ける。
そして両手で涙を拭いていた。
俺は何も言ってやれず、後ろ側から七海を抱きしめた。
宝物のように優しく。
「・・・樹君」
柔らかな風が俺達を包み込む。
夏の終わりが近づいていた。
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