じゃあ、次の練習の時にアップルパイ、作って持って行くね。
遼は、特別にワンホールね。
そう言って、なんとか笑顔のまま別れたのは、門限の15時を2分過ぎた時だった。
遼が別れ際に私に向けた笑顔は、いつものトロンボーン奏者の遼で。
男、ではなかった事に私も嬉しくなって、心の底から。
とびきりの笑顔で、今日はありがとう、と。
言えたと思う。
さあ問題は、門限を数分過ぎた事。
遼の車を見送って、見えなくなると、思考は急に切り替わる。
まだ、陽は高い。
風は少し冷たさを増して、電線の上に止まる雀を丸く膨らませている。
小鳥が寒さに丸くなっていると、ちょっとドキドキするのは、何故だろう。
寒いって言ってるのに、とてもとても、可愛いく感じる。

