木曜日、金曜日。
音楽を、楽しい、と思えなかった。
楽団を辞めようと思って、トランペットもしまったまま。
買ったばかりのバルブオイルも、無駄になった。
哲は、楽団の事も、遼の事も、何も言わなかったけれど、部屋に、来なくなった。
今までならば、朝、昼、夜、と。食事の度に、おやつの度に、互いの部屋をうろうろしていたのに。
一昨日の朝、手を振り払ってから。
来なくなった。
仕事中も、チョコレートを、包装紙のまま、私の軍手に置いていく。
冷たい訳じゃないのだけれど。
確かに、哲にじゃれつけなくなったのは私で。
熱を計るために触れられた額が、いつまでもゾクゾクと疼いていたけれど。
哲の手から。視線から。
逃げるようになったのは、私なんだけど。
これ以上、好きになったら。
もし、遼みたいに。
哲を、あんな風に無くしたりしたら。
嫌だし。
…怖いし。

