「……下がってる」
哲は、白けた目で私を見ると、視線を逸らす。
屈んでいた体を起こし、背を向けてようやく、私の視線がその背の真ん中に、定まった。
………どうした私。
マズいぞ私。
バレるぞ私。
…駄目だ駄目だ!!
100歩譲っ……譲らなくても私が哲を好っ…好きだとか、忘れてもらわなきゃ!!
私も忘れなきゃ!!
………なかった事に、したいんだよ…。
「…鳥」
目覚めから心臓をバクバク言わせている私を、知ってか知らずか、哲はベランダを指さすと、私のキッチンに立った。
勝手知ったる様子で、リンゴを手に取り、包丁を握る。
「……縦?横?」
心なしか、機嫌が悪いような気がする。
「よ…っ、横」
昨日、真ちゃんのくれたのは、金柑と、柚子。
金柑は美味しかったから、私が食べるんだ。
柚子は、鳥、食べないしね。
哲は微妙に不機嫌そうな顔で頷くと、リンゴを横に、切った。

