真ちゃんの唇が、哲に何か言っている。
哲も、何か喋っている。
きっと内緒話なんだろうな、って思ったけれど。
意外といい声をしていたボーカルが、ビジュアル系特有の歌い方をしたことに、ちょっと可笑しくなって。
隣に座る真ちゃんの袖を、引っ張った。
きっと勝手にイヤホンを取ったら、2人とも怒るんだ。
私は一応、空気を読んだつもりで、袖を引っ張るだけにしたんだけれど。
淡々と何か喋る哲の、苛ついたような所作と、それを眉を寄せて聞く真ちゃんの目と、に。
すぐに手を引っ込めた。
片耳から、イヤホンを外されて、ニコッと優しげな顔を見せられ“3曲聴いて”なんて言われても、なんだか不穏な空気くらい、解る。
哲の無表情、とか。
哲の苛立つ顔とか。
そんなのはよく見るんだけれども、真ちゃんの、眉を寄せる顔なんて、あんまり見ない。
なんで急に、深刻な話?
ほんのり不安で、少しだけ怖いような、気分だ。
いや、熱のせいかも知れないけど。

