私は裸足では無かったけれど、真冬に外に出てもいい格好ではなくて。
だけど、寒い、と認識したのは。
ひとしきり細い路地を逃げ走り、大使館の裏手にある緑地帯の中に倒れるように身を潜めてからだった。
ポケットに携帯。
持っていたのは、それだけだ。
走ったせいで上がった息は真っ白で、住宅街から外れた為か、人通りはまるで、ない。
公道を通っただけでは見つからないような、植え込みの陰に座り込んで、唯一の所持品の携帯を、握り締めた。
“哲”が。
無くなる。
それは“居なくなる”と、どっちが悲しいだろう。
握った携帯が、着信を告げる。
ただの電子音だけれども、表示された哲の名に、涙が込み上げた。
延々と鳴り続ける着信音に、出ることも切ることも出来ずに、ただ画面を見つめる。
私の頭の中は、薄く削いだ金属を握り潰すような音でいっぱいで、息が。
苦しかった。

