遼は、何も言わなかった。
こんな乱暴な扱いなんか受けたことないだろうから、びっくりもしたんだと思う。
ただ、私の中の遼では、考えられないほどの目で、哲を睨みつけていたのだけが、妙に目に付いた。
「また、泣かす気か」
淡々と話し掛ける哲が、どんな顔をしているのか、私からは見えなかった。
「……泣かす気なんか……!!…関係…ないだろ!蜜は…蜜はあんたのじゃない!」
遼の首元に、哲の右手がある。
絞めたりはしていないけれど、圧迫感は相当なのかもしれない。
ようやく叫んで身じろいだ遼の声は、苦しそうに掠れていて。
私は身の置き場もないような、居たたまれない気持ちで、哲の赤い髪を、見つめた。

