G線上のアリア。
この曲、団長に聞いたけど、バイオリンの弦一本で弾くんだって。
その弦がG線なんだって。
だから、オーケストラでやる、この曲は、“G線上の”って付けないんだって。
そんな事を、しゃべり続ける私を、哲は表情をあまり変えないまま、聞いていてくれる。
譜面も読めないんだから、楽器の話はあまり解らないはずだけど、黙って聞いていてくれる。
無事に部屋に戻って来て“哲のいる哲の部屋”になった場所に、妙に浮かれたのは確かなんだけど。
手も洗わないまま、哲の後ろをついて歩いた。
自分でも、おかしくなるくらい、子供のように。
だって、さ。
婿様がはしゃぐから。
不安になったんだ。
G線上のアリアのように。
G線1本が切れたら、奏でられない音楽のように。
哲が居てくれて嬉しいんだけど、薄氷の上に立たされたような、そんな気分なんだ。

