「……もう、帰れ」
「…え?」
くしゃりと、髪を撫でられて。
邪魔だから帰れ、と言う意味ではないのだと。
少し安心した。
「この前のオランジェット、買い足してあるから」
帰ったらそれ食って、今日は誰も呼ばずに寝ろ。
独り言のように、わざわざ視線を外して言った哲との、身長差が。
何故だか妙に、気になった。
遼と、哲。
比べてるんだ私、と思い至った所で、はっきりと。
駆け抜けるような悪寒と共に、快楽を追って動いた遼の、切羽詰まった目を、思い出した。
「……全部食べていいの?」
「全部!?」
「うん、全部」
「………いい、けど」
あてがわれた白いベッドに腰掛けた哲の、高さの近づいた視線を、こんなに居心地悪く感じた事はなくて。
なんだか浮気したような、後ろめたい気分に。
哲の唇の、ピアスだけを見つめていた。

