「もうちょい寝たかった」
「…後でにしろよ」
寒い、寒いとトレーナーの裾に膝を突っ込む。
安いスノコのような肌触りの床は、さほどの冷たさではない。
何度も言うが、寒いのは、ウサギの尻尾のついた、ショートパンツのせい。
明らかに自業自得。
「哲…リンゴあったっけ?」
「一昨日、社長に貰ったろ」
ああ、そうだった。
我が職場の、女社長。
社交的で、おばさん臭くて、お金持ちで、ダイエットに興味津々な、愛すべき社長。
仏壇に上げてあったリンゴとミカンと洋梨を。
鳥にやるなら、とくれたっけ。
ごめんなさい社長。
洋梨は私が食べちゃったよ。
みっちゃんが食べるなら新しいの持って行きなさい、って言われたけど、つい遠慮しちゃったんだっけ。
「…何、見てるの?」
哲が、目の前にしゃがみ込んだまま、私の顔を見つめていた。
カーキ色のパーカーと、赤い髪は、時々。
…綺麗に見える。

