指が、ない。

哲の指が、ない。



脳の中心に、氷が突き立ったような恐怖が、私を襲った。



どうしよう。
指がないなんて。


切れた?
切れたんだよね?

切れた指先は……?



私は裁断機のそばに落ちた、軍手の切れ端を掴んだ。

躊躇いなくひっくり返せば、見慣れた形の爪が、手のひらに転がり落ちる。



「哲!指あった!!!」


痙攣するように震える右腕に、筋が浮くほどに強く、左手首を掴んでいるのに、鼓動に合った決まったタイミングで溢れ出す血は。

今まで見たことも無い勢いで、床に血溜まりを作った。


もう、泣く余裕も、ない。



「氷!袋!救急車!!早く!!!」


何を立ち尽くしてる!?
見つめてないで、動いてよ!!

早く!早く!
お願いだから!

まだ指先が温かいうちに!



弾かれたように動き出した婿様たちが、この時ほど鈍く見えたことは、ない。