旋盤の音が、おかしくなった。
鋳物で出来た、200個の部品のど真ん中に、指定されたサイズの穴を開ける。
これは、直径24mm仕上げだから、下穴として23mmのドリルを使う。
順調に140個まで、下穴を開け終わったところで、奇妙な音の振動を、軍手越しに感じた。
回転のリズムにぴったり合う、水面を叩くような、振動。
「シゲちゃん、ベルトの在庫、ありましたっけ」
私は旋盤を止めて、一番近い機械をいじる、定年を過ぎた、茂さんに声をかけた。
呼び名は“シゲちゃん”。
ちなみに、もう1人いる定年過ぎのじぃちゃんは、衛さん。
当然“まもちゃん”だ。
我が職場は、哲と私。
婿様と、シゲちゃんとまもちゃんの定年コンビ、あとは推定53歳の、磯辺さん。
それから、社長。
7人だけの、町工場。
都会のど真ん中だけど、町工場。
すぐソコに六本木ヒルズが見えるんだけどね。

