ならばもう一つの武器である牙で!

食らいつこうとするフェンリルだが。

「ぬぅんっ!」

その顎に、羅刹の痛烈な一撃!

意識を断ち切られるような、脳を縦に揺らすアッパーカットの衝撃がフェンリルの頭部を貫く!

勝負は一瞬だった。

体力やスタミナに関係なく脳震盪によって気絶させられ、フェンリルはマットに沈む。

…観客席、踵を返して去っていく白衣の男の姿が見えた。

フェンリルの親代わりの研究員。

(捨てられたか…)

敗北すれば最早用無しか。

無情な研究員への憤りと同時に、フェンリルを憐れに思う。