厨に到着すると、一緒に炊事当番の原田左之助が来ていない。 どうやら、一番乗りだったらしい。 襷(たすき)で袖と袂をたくし上げると、譲は一つため息をつく。 (全く……左之さんは……) いつもはちゃんと時間通りに起きて手伝ってくれる左之さんがいないということは、おそらく昨夜、吉原にくりだして、酒を飲んだのだろう。 吉原の帰りの朝は、いつも寝起きが悪い。 こうなれば仕方ないと諦めた譲は一人で朝食の支度を始めた。