「…………ふっ」


「………………何だよ」


「…………永倉さんって、タラシですよね」




あたしが笑いながら言ったことに、永倉はバツが悪そうに口をへの字に曲げながら、
あたしから離れた。




「どこがタラシなんだよ。カワイソーな後輩を慰めてやってる優しい先輩だろうが」


「あたしこれでも妙齢の女子ですよ」


「だから何だよ」


「あんまり優しくされると、本気にしちゃいますよ」


「………………」




あたしの言葉に、永倉はむっつり黙り込んだ。

何とも言えない表情でどこかを睨んでいる。




…………面白い。

普段ブレない人がこうもグラついてると、結構笑えるもんなんだな。

どうやら永倉は動揺してる。


さっきの言葉が口説いてる言葉っぽいことに自分でも気付いてたみたいだ。




「…………ま、あたしはしませんけどね」


「………………お前は女じゃないものな」


「永倉さんは、一回燃えちゃえばいいと思いますよ」


「おっ前、恐ろしいこと言うのな」


「さっき永倉さんが言った寒いセリフに比べたら恐ろしくなんてないですよ」


「やかましいわ」




縁側から降りて庭の真ん中まで進んだ。

後ろで拍子抜けしたような顔をしている永倉は見なかったことにする。




「…………ありがとう、組長センセ?」


「…………あざとい奴」


「さっきの寒い言葉、結構心強かったですよ」


「そりゃ良かったな!!」




フン!と鼻息荒く腰を上げ部屋に入っていった永倉の後ろ姿を見つめて、
空を見上げた。

さっきは雲がかかっていたけど、今では晴れている。


同じように、あたしの心も少し晴れた。