別に、永倉が怒ることじゃないのに。
そう思い苦笑して、肩をすくめる。
「そう至った理由も、忘れちゃうような、しょーもないものだったんですけどね。
子供の喧嘩なんて、どんなにつまらないことでも、カッとしたら思わず手が出ちゃうものなんですよ。
あたしの運が悪かった所は、その相手がカッとなった時に、たまたま金属バットを持ってたってだけ」
「…………」
永倉は何も言えないのか、複雑そうな顔をしていた。
でも、その目はどことなく避難がこもってる気がする。
たぶん、笑ってるあたしが気に入らないんだろうな。
永倉は、面倒見がいいというか、なんというか。
曲がったことが嫌いそうな、こういうことが許せなそうな性格に見えるから。
「殴られたあと、その男の子は目尻から血を流すあたしを見て顔真っ青にして、走って逃げてったんです。
…………追う気にもならなかったけど。
そのまま家に帰って、慌てて両親に病院に連れていかれました」
「…………」
「怪我自体はそんなに酷いものじゃなくて、
まぁこんなもんで済んだんですけど。
…………でも、何もないわけじゃなかった」
「…………」
「あたしの左目、実はもう見えないんですよ」
「…………見えないだって?手術しても?」
「見えません。殴られ方が悪かったのか、目もガツンといっちゃって。
視力がもうほとんどないんです」
「…………」
永倉はもう洒落にならないくらいのシワを眉間に寄せていた。
もうこれ、絶対 痕取れないな、って思うくらい。
分かるよ。カワイソウだな、憐れだなって思うでしょう。
あたしだって思うもの。
なんて運が悪いんだろうって。
あと一週間遅かったら、あたしのこの左目は治るはずだった。
でも、こんな怪我しちゃって、消えない傷跡が残って、視力までなくなってしまった。
カワイソウ、って思う以外に何がある。
「視力がないなら、白内障の手術したって、何の意味もない。
……そう思って、治療を諦めたんです。
どうせ無駄だ、って」
怪我をして帰ってきた時も、手術をやめると言った時も。
お父さんもお母さんも、悲しそうな顔をした。
何か言いたげだったけど、結局あたしに気兼ねして、何も言わなかった。
あたしの要求を、そのまま呑んでくれた。
「一番、させたくない顔を、両親にさせちゃったんですよね。
…………あたしは、とんだ親不孝者です」

