左手を上げてふるふると振る。

こうやって動かせるくらいには、痛みは軽くなった。


「………何があったんだ?」

「え」


何の前触れもなく聞いてきた斎藤に、あたしは一瞬ポカンとする。


「一昨日、だ。局長らに言ったこと半分は嘘なんだろう」

「………何で」

「宮本がそんな簡単に相手を怒らせるような事をするとは思えんのでな。
面倒な事は嫌いなんだろう?

それに、お前、結構 人見知りだろう」

「………………」


…………何でこの人、こんなに鋭いんだろう。

よく分かったな。確かに初対面には基本無口な方だけども。

ここに来てからは予想外な事が多過ぎて、自分でも忘れていたくらいなのに。

何を見てそう思ったんだろうか。

じっと静かに、あたしの目を見つめてくる黒い瞳に、何だか吸い込まれそうだ。


「…………別に、嘘じゃないですよ。かいつまんで話しただけで。

事実を言ったわけではありませんけど、嘘をついてもいません」

「…………そうか」


斎藤は静かに呟いた。