「あれ、眞希ちゃん」

土方に追い出される形で部屋を出たあたしは、廊下で沖田と鉢合わせた。


「沖田さん」

「この暑いのに涼しげな顔だねー」

「フツーに暑いですけど」


今はもう6月の終わりだ。

といっても、暦が現代と違うから実質もう7月
の終わりと言える。

通りで暑いはずだ。


「沖田さん何してんですか」

「ついさっきまで稽古してたから。ちょっと涼もうかと」

桶を持っている手を挙げて、にこっと笑った。


「ああ、稽古ですか。大変ですね」

「本当に大変だよ。暑いから熱病にかかりそうだ」


あたしは決して稽古を大変と言った訳ではない。

あなたの稽古を受けた隊士の方々が大変だと言ったんだ。可哀想に。今頃部屋で死にかけてるかもしれない。

沖田の稽古は下衆の極みだ。人間が受けるものではなし、とだれかれ構わず言われている。


「ねぇ沖田さん」

「なぁに」

「土方さんって何でこのクソ暑いのに熱いお茶飲むんですか?」

「さぁ。馬鹿だからじゃない?」

「ですよねー」