思い出の丘に、狂い花が乱れ咲く。
吹き付ける風に嗤われながら、それでも一心に花開き、想い焦がれて低い空を見上げている。
「バカだな、」
無意識に出た言葉は自分に刺さった。
『ちょっとだけ、待ってて』
一方的に押し付けられた約束は、何年もの間に色褪せて形を失いつつあって……。
「バカだ、ほんとに、」
縛られてるのは俺だけだって頭じゃなんとなく分かってるのに、どうしてもそのぼやけた声を捨てられないでいた。
所詮はこの花と同じってことだ。
周りから見れば滑稽で、不毛で、痛々しい。
いつまでも、いつまでも、みっともない。
「お母さん!見て!キレイ!」
無邪気な子どもの笑い声。
丘全体を見渡して、興奮気味に飛び跳ねる。
「そうね、素敵ね」
……綺麗?
季節を間違えたことにも気づかずに、バカみたいに懸命に背を伸ばすこの花が、素敵?
『一途だね、ここの花達は』
忘れていた笑顔がはっきり蘇る。
ぶわっと全身に鳥肌が立って、思わず自分を抱き締めた。
空気の澄んだ小春日和に散歩するのが好きだった。
歩いて5分のこの丘で、街を見るのが好きだった。
指でそっと花を撫でて、愛おしそうに微笑んでいた。
「っ、」
滲む視界にチカチカと主張する花。
自然に緩む口元が笑う。
「あーあ、早く春になんねぇかなぁ」
ソイツの口癖を声に出してみる。
どこからか楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。