目の前に横たわる線を越えれば、
そこは別世界の様に澄んだ青空が広がっているのに。

僕の足は地面に張り付いてぴくりとも動こうとしない。

体を濡らす時雨は鋭く、じくじくと僕を蝕んで、
いつまでもいつまでも降り注ぐ。

線の向こうは楽しそうだ。
キラキラ明るくて温かそうだ。

だけど僕には眩しすぎて、
見ているだけでも溶けてしまいそう。

瞳を逸らし、しゃがみ込み、
冷たい世界に独り、閉じこもる。

「たまには遊ばない?」

突然の声に顔を上げると、そこには、
水色の傘を僕に傾け、ふんわり微笑う君がいた。

線を挟んで、みぎひだり。
同じ高さで視線を合わせて、もう一度、にっこり。

「あ、止んだね」

弾む言葉に空を仰いだ。
傘が避けられた視界に、焦がれた青が広がった。

「おいでよ!」

立ち上がって、僕の前に手を伸ばす君。
不思議と迷うことはなかった。

線を跨いだその瞬間、嘘の様に降り出した雨。
その中に、もう僕はいない。



目の前に横たわる線を越えれば、
そこは別世界の様に重たい時雨が降っている。

その中で蹲る影を見つけて、
僕は、傘を片手に走っていた。