真夜中の海が黒く膨らみ、こちらに押し寄せてくる。強い潮の香りに紛れ、どこかでくちなしが香る。


 振り返ると、俺の背後に笙子が立っていた。



 白い浴衣の衣擦れの音。


 俺を見上げる黒く濡れた瞳。



 笙子が近づくにつれ、濃くなる甘い香りに、俺は一瞬我を忘れた。