約束なんてない。 俺は会いたくなったらそこへ行く。 大抵は、月が明るく砂浜を照らす夜。岩屋と呼ばれるその洞窟の入口に腰掛け、俺は笙子を待つ。 甘く、苦しいくちなしの香り。 それに気づいたのはいつのことだっただろう。 芳しい、吸い寄せられるようなその香りは、笙子の体から立ち昇っていた。