――――……
―――……
「……はあ」
今日何度目かの溜息を零す。
頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ると、寒そうに身を寄せ合って歩くたくさんのカップルが行きかっていた。
「……はあぁぁ」
「38回」
え?
顔を上げると、向かいの席に座った留美子がパンケーキを口に運んだところだった。
「今日の海ちゃん、ため息ばっかり。乙女だねぇ」
「……。留美子、早くそれ食べないとせっかくのアイスが溶けるよ」
「味わってるの」
あたし達は、前に来たカフェに来ていた。
留美子の目の前には、たくさんのベリーとアイスの乗ったほかほかのパンケーキ。
ほんと幸せそうに食べるな……。
なんだか可笑しくてクスリと笑うと、留美子はフォークをおいて紅茶に手を伸ばした。
「……で。沙原っちなんて?」
「……」
「聞いたんだよね、キスした理由」
「……聞いたってゆーか……」
手元のカフェラテをジッと見つめる。
クリームで可愛い小鳥の絵が描かれてる。
「……ごめん……って」
なんとなく言いづらくて。
自分でも聞き違いだって思いたくて。
言った声は、空気になって消えた。
「え?」
留美子の眉間にグッとシワが寄る。
あたし以上に不審がるその表情になぜかすごく慌てた。
「……い、いきなりだったし、あたしも放心状態だったってのもあるけど。それから何も聞けなかったんだよね。洸さんも何も言わなかったし……だから」
「ねえ……まさか、なかったことにされてないよね?」
「……」
なかったことに?
されてるのかな……。
帰りの車の中の記憶すら曖昧だ。
ただ、洸さんは一言も話さなくなっちゃって。
その空気が重たすぎて、いたたまれなくて。
それであたしは、ひらすら流れる景色を眺めることに集中してしまっていた。
うわぁ、頭の中ぐちゃぐちゃ……。
「もう!意味わかんない~~」
ガバッと頭を抱えたその時。
すぐそばで人の気配がして顔を上げた。