席は自由だったけれども、列は出席番号順らしく、薙ちゃんと離れ離れになってしまった。
私の後ろにいるのは、自己紹介で【大和泉撫子(やまといずみなでしこ)】と名乗った、正しくそのまんまの大和撫子だった。


「毛利さん、よくあの男子…斑鳩君といらっしゃるわよね?」
「へ?」


いきなり話掛けられてどうしようかとあたふたしていると大和泉さんは笑った。


「大和泉さんっ!その…私と薙ちゃんはこっ、恋人ではなくて…」


段々顔に熱が集まるのが解った。
はっ、恥ずかしい…!



「ふふっ、そんなに焦らなくても、私は斑鳩君の事はなんとも思っていませんし、毛利さんの方が私としては興味深いのですよ」


何か楽しそうな事を仕出かしそうと、笑っている瞳が物語っている。


「大和泉さん!それってどういう意「あら、同じ学年なのだから、私のことは是非撫子とお呼び下さいませ」なっ撫子…?」
「ええ、ですから、私も毛利さんの事を的とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「どっ、どうぞ…」
「まぁ!嬉しいですわ!」


撫子は上品に笑った。
さっきの言い争いの時とはまた違う別人みたい…

――っく……あははは!!!!見た!?最高だね!葵ちゃん!――

お腹を抱えて爆笑していた彼女と、上品な笑顔を浮かべる撫子は二重人格?と思わざるを得ない。


「的…これは忠告です。気をつけて下さい。貴女は基本、誰かと共に行動した方がいいですわ」
「へ?なっ、なんで?」
「Sクラスであれだけ騒がせた美丈夫を世の乙女が放る訳がありませんでしょう?」
「はっ、はぁ…」


言っている意味がよく分からない…


「そうですね…疾風、小春、月…位ですかね。斑鳩君も親衛隊が今日中にでも出来そうですしねぇ…」
「えっ、いやっ、あの…」
「はい。なんでしょうか」
「親衛隊って…?」


よく分からない単語がでてきた。
あまりに聞き慣れなさすぎて、思わず聞き返してしまった。


「親衛隊は…そうですねぇ…。アイドルの追っかけの様な存在ですね。まぁ、やることなすことは追っかけと程遠いですが」
「たっ、例えば…?」


聞くのに一瞬戸惑ったが、一応聞いておくことにした。


「不用意に近づく女子を虐めたり、学校中に恥ずかしい合成写真ばら蒔いたり、果てには男子を利用して強か「もういい!ごめん!聞いた私が悪かったから!」あら…まだまだありますわよ?」


もういいです!

《新入生、入場準備しろ》

たまには空気を読む学園長の放送で、私達の話は一旦、終了した。



講堂に向かう途中で、燕が空高く飛んでるのを見た。
どうやら今日一日は快晴らしい。



眠い…非常に眠い…

今、私達は第2講堂という場所で入学式を行っている。
長い間じっとしている事は可能だが、何分暖かな日差しが…


「―――新入生の皆さん、最初は不慣れな学園生活だとは思いますが、気を引き締め日々をお過ごし下さい」
「生徒会長、ありがとうございました。…閉会の言葉。学園長お願いします」


何時の間にか式は終わりかけだったらしい。
そんなに長くウトウトしてたかな…?


「司会、閉会の前に一ついいか?」
「ええ、学園長。どうぞ」


何も告げられていないのか司会の先生は少し驚きながらも学園長に絆た。


「あー…今年の文化祭についてだ。今年の文化祭は、6月の第3土曜日に行う」


文化祭という単語が出てきた途端、講堂内はざわめきで埋め尽くされた。
微かにだが、嬉しそうな声も聞こえる。
まぁ、嬉しいのは当たり前か。
でも急すぎでは…?


「全く…学園長殿、急すぎではないか。妾達も暇ではないのだ」
「そーそ。新入生も新しい生活には未だ慣れてないでしょ。2学期に入ってから文化祭しようよ」


喜びの声をかき消す様に男女の声が聞こえた。
澄んだ綺麗な2つの声が場内を静かにさせた。
何事かと、声の発せられた方向を見れば、2・3年生の席で女子と男子の先輩が立っていた。


「成敗委員長と風紀委員長…」
「撫子…?」


隣の撫子がありえないと首を横に振って顔を顰めた。
周りの生徒の中には顔を真っ青にしている人だっている。
なんだって言うんだ。


「そうですよね…的は知りませんわよね…」
「うん…なにかあるの?」
「あの女子の先輩は葛城マリア。本日は私達をビビら…怖がらせない様に持ってきてはいないようですが、常に刀を腰に差しています」
「は?刀?」


学生で刀…小説でしか見たことないのだけれど。
あれだよね、一人いれば十分だよね。


「そして…成敗委員会の委員長です」
「はい?せいばい?」


聖培?いや、字的に違う気がする。


「《絶対的な征伐》を彼女は執行するのですよ。詳しくは後で話しますので、次の零囗先輩(ぜろくにせんぱい)を紹介致します」


やや早口で存在感を放つ美形の先輩を紹介してくれる撫子は予想以上にいい子です。



「近くに立っているのが零囗恒河沙(ぜろくにごうがしゃ)先輩です。葛城先輩同様「帯刀してるの?」馬鹿仰言い。彼は常にガスマスクをしているのですよ」


ガスマスク…?
余りに聞き慣れなさすぎて驚くのも億劫になってきた。


「ああして素顔だけ晒していれば…ゴホンッ。彼は風紀委員会の委員長で《運命的な静粛》を執行します。零囗先輩も詳しくは後で説明致します。もう1人、彼らと同じ地位にいる生徒がいます。その方は知らない方がましです」
「…なんでそこまで優しいの?」


今日会ったばかりのほぼ他人に。
昔からの癖で、裏で何かあるのではと思ってしまった。


「あら。私、興味の沸かない平々凡々・自画自賛野郎には全くと言っても興味がありませんの。貴女は自分からこんなトコロに入ったのですから、興味はあります。それに……皆さん刺激を求めているのですよ。何かしら仕出かして欲しいのです。それで、私考えましたの!私がその切っ掛けを作ろうと!全人類を巻き込んでもいいですわよ!?」
「サイバーテロは薙ちゃんに言ってよ…」
「まぁ!斑鳩君はサイバーテロが出来るのですか!それは好都合です!」
「止めて!変な方向に動かないで!」


この人、声は小さくても野望はとんでもなくデカイ人でした…



「なんだ、葛城成敗委員長と零囗風紀委員長。異論があるなら考えをまとめ、挙手しろ。制限時間は3分。それ以上もそれ以下も認めん」
「お堅いなぁ~自由な校風丸つぶれだよ?」
「個人の自由を最大限まで保証するのがこの学園の校則ではないのか?」


撫子との話がヒートアップしていると、学園長と2人の先輩が口論を始めた。
両者譲らずの展開で、皆唾を飲み込んで見守っている。


「小煩い鼠共がはやくしろと煩いのだ。黙ってもらう為に時期を早めた。貴様らには都合がいいだろう。生徒会選挙や、委員会の代替わりは秋口に行うのだ。忙しさが半減していいだろう」
「……そうですね。僕も学園長の案に賛成です」


すると、いきなり第3者―――生徒会長―――が入ってきた。
撫子が急に興奮し始めた。
鼻息が荒い。
まさか…!まさか、そんなはずは…!


「生徒会長は学園長側ですか…成程…いい展開ですね…。ここで零囗先輩を押し倒してくれたら私昇天できますね」
「撫子さん…?腐ってませんよね?」
「何を言います。バリバリに骨まで腐っていますわ」


うっそーん。


「次いでに言っておきますが、夏休みと冬休みというワードは私の中にはありませんので。ある本を描くのに必死なんで」


ポッ可愛くと頬を染めて可愛くないこと言わないでくれますか!?


「夏にはそうですね…斑鳩君と的をかけますか」
「やめて!全力で阻止していいかな!?」
「そう言われると、逆に燃えてしまいます…!」
「お願いだから!」


こっちもこっちで白熱しているが、学園長達は正しくデットヒート。
生徒会長が学園長側に加わり、口論の激しさが増した。


「生徒会は仕事量が腐る程あるんです。それだったら、文化祭を今の内に済ませた方が仕事の量は減るし、僕的には万々歳です。生徒会の引き継ぎは面倒この上ないのですし」
「でも、開催を早めたってやる事は同じじゃん?そんなの俺らはつまらないって」
「毎年毎年飽きもせずようやる。いっそのこと普通の文化祭を無しにすればどうじゃ。委員会としては何事もなく過ごせるから良い案だとは思わんか?」
「文化祭は伝統行事だ。葛城成敗委員長と零囗風紀委員長は毎年同じ様な文化祭は飽きたということか?」


唯の個人の感想じゃん!
生徒会長は仕事が減るので、賛成派。
葛城先輩と零囗先輩は普通の文化祭に飽きたので、反対。
学園長を含めて4人だけで話し合い―――口論―――をしている姿をどこか遠目に私達は見つめている。
しかし、早く終わらないかと思い始めてきた頃、話の展開がおかしくなった。


「飽きる行事を行ってもつまらんなら、数年前に廃止した文化祭恒例のアレでもやるか?」