「…………」
「的、入って。つっかえる」
「いや、あのね?薙ちゃん…」
「中で何かやってんの?」



今私と薙ちゃんはSクラスの前に来ている。
よくありげな横開きの扉を開ければ、爽やかな好青年と、どう見ても不良な男子が派手に言い争いをしていた。
なんとも言えない程、派手である。
派手としか言い様がない。
いや、本当に。


「青年と不良が派手な言い争い?なに実況してんの?」
「…口がすべった?」
「思いっきり。全て筒抜け」
「薙ちゃんのエッチ!スケッチ!ワンタッチ!」
「…ワンタッチしてやろうか」
「すみません、ごめんなさい。いや、ほんっとやめてください。」


無表情でそんなこと言わないで!
怖いよ!薙ちゃん!
薙ちゃんは無表情に私の前に立って扉を開けた。
そして派手な音を立てて扉を閉じた。
薙ちゃん……扉壊れるから。


「…派手だよね、薙ちゃん」
「………何アレ。バカじゃないの?というか馬鹿なの?」
「それ言い過ぎだよ…」


無表情が怖い!さっきとは別の意味で怖い!
薙ちゃんはブツブツと何かいいながら、再び扉を開けた。
好青年と不良は相変わらず言い争いをしているが、その他の人は入ってきた薙ちゃんをガン見である。
恥ずかしくないのか!
ある意味、薙ちゃんの羞恥心の無さに度々驚きを通り越して呆れるんだけど!


「なに、気持ち悪い。こっち見ん「席は自由にしていいって!さぁ!好きな席に座ろうね!薙ちゃん!」……な」


印象最悪だよ。

薙ちゃんと私は適当に席を決めて(その間も言い争いは続いて、他多数はこっちをガン見である)、お隣同士になった。


「ここは俺の席だ!」
「いいえ!僕はこの日当たりのいい席がいいんです!」
「窓際の列は日当たりがいいじゃねぇか!」
「ここは特に日当たりがいいのです!」


…………よく聞けば言い争いの原因は日当たりがいい窓際の一番後ろの席の取り合いらしい。
お前らは小学生か!
低体温症か!


「はぁ………低脳な言い争いじゃん」


薙ちゃんは面倒そうに席から立ち上がって、言い争う2人に近づいた。


「ねぇ。そこの2人」
「あぁ?んだよ、テメェ!」
「なんですか!」
「うるさい。黙れ。邪魔。教室内の俺らのことも考えてよそでやってろ。日当たり求めてんならベランダにでも出て、光合成で葉緑体でも作り出してろ」
「「…………」」


暴言たっぷりの毒舌を加減しないで思ったことをそのまま言う薙ちゃんに教室内の皆は唖然としている。
当たり前だよね。
私もそうだったよ。うん…


「っく……あははは!!!!見た!?最高だね!葵ちゃん!」
「幼稚舍から言い争いを続ける小春と疾風を無理矢理黙らせる奴がおろうとは!」
「中々いないよね~、こんな大物」


3人だけ、薙ちゃんの言動に笑う人がいた。
口火を切ったのは正しく大和撫子のような子で、
それに反応した女王様口調の美女と、柔らかく笑っているどこかで見た顔。
3人は私が吃驚する程冷静である。
薙ちゃんはそんな3人が気に入らないのか、射る様な目線を向ける。
相当気に入らなさそうだ。



「何?お前ら」
「そんな目で見ないでくださいな。私達はそこにいる2人のクラスメイトですよ」
「そうだ。そこの言い争い組とは幼稚舎から一緒だからな。必然的にお前みたいな奴は珍しくてしかたないのじゃ」
「今まで、面白半分で近づいて挫折する女子なんて腐る程見たけど、君みたいな男子は初めてだよ」


周りの人の中でも、彼らは特別に見えた。
何かが違うと思わせる。


「…はぁ、興ざめじゃねぇか」
「……仕方ない…ここは誰かに譲るよ」


2人は―――そりゃあもう嫌そうに―――言い争いの原因となっていた席を、近くにいた(なぜか嬉しそうに赤面している)女子に譲った。
まぁ…嬉しいでしょうね。

疾風と呼ばれていた人も、
小春と呼ばれていた人も、
性格は正反対そうで、
賛美を浴びせたい程の美形なのですから。




「…何この罰ゲーム」
「知らない」


先ほどの言い争いは薙ちゃんによって(無理矢理)沈静化され、2人はどこに座ったかというと…


「なんで私の前後なの…!」


神様はよほどドSなのか、彼らを私の前後の席に座らせやがった!
ほら、もう、皆、騒いでるんだけど!
すみません!
こんなダサい眼鏡とお下げで気持ち悪くてすみません!


「…い~くは~、腹減った」
「知らない知らない私は知らないそう知らないのだよあははは」
「テンパってやんの。…ねぇ、なんでその席に座ってんの?」
「「空いている席がここしかなかったから」」
「あっそ…どうでもいいや」
「薙ちゃん、どうでもいいこと聞いちゃあかんよ」
「的、訛り下手くそ」
「煩い、馬鹿ァ!」


もう、若干涙目になっちゃったよ!


「はぁ~い、皆さ~ん、席に着いてねぇ~」


マジ泣きしそうになれば、根岸先生が前の扉から入ってきて、先生を拝みそうになった。


「入学式まで、少しだけ時間があるからクラスの皆に自己紹介してもらうよ~。そうだねぇ…氏名・誕生日・趣味・特技・自己ピーアルの5つは言ってね~」



成程。
親睦を深める一環かな。
見本として、根岸先生から自己紹介をするらしい。
親睦を深めるとはいっても面倒かな…


「皆は知ってるかもしれないけど、僕は根岸晴彦だよ。養護兼数学の先生です。誕生日は12月17日。趣味も特技も将棋かな。1年間よろしくね。まぁ、こんな感じかな~。じゃあ廊下側の君から!」


次々と自己紹介していく人をぼんやりと見ていれば、何時の間にか前の人の番になっていた。


「はじめまして、氏家小春といいます。誕生日は3月17日です。趣味は読書で、特技はありません。一年間という短い時間だとは思いますが、よろしくお願いします」


びっくりするほど柔らかく微笑む姿にクラスの女子の大半は顔を赤らめたことでしょう。
えぇ。そりゃ、
若干悲鳴が聞こえたほどですし?
黄色い悲鳴が。
もううるさい!
薙ちゃんなんて、「マジうぜぇ」みたいな顔してるし。


「毛利さ~ん?次君だよ~」


根岸先生の一言ではっとなる。
そうでした。次私だったね。


「えっと…毛利的です。…誕生日は2月11日です。趣味と特技はギャンブルです!よろしくお願いします」


趣味と特技で薙ちゃんが鼻で笑ったので、消しゴムを投げてスッキリ爽快。
ギャンブルなめんなよ!


「じゃあ…次は不知火君~」
「不知火疾風…。7月14日。…特になし。以上」


…ってこれだけかい!
簡潔すぎるでしょ!
根岸先生の手本は一体なんだったの!?


ガラッ

「遅れましたぁ~」


今度は誰ですかぁ!!

「あぁ~…来栖君は仕方ないかぁ~空いてる席に座っていいよ~」


初日から遅刻って大物と思ったが、訳があるらしい。
根岸先生は怒るわけでもなく、笑って空いてる席へ彼をほだした。


「じゃあ、自己紹介続けようか。次は…斑鳩君!」


ぼんやりしていたら、隣の薙ちゃんまでいっていた。
面倒そうに立ち上がって、無機質の様に喋り始めた。


「あー…斑鳩薙。誕生日は6月15日。趣味なし。特技パソコン。えー…よろしく」


あんたも簡潔に述べすぎだ!


「次は来栖君~」


なんと、先ほど遅刻してきた男子は薙ちゃんの後ろの席に座ったらしい。


「は~い!えっとね~…僕は来栖月って言うんだ~!趣味はお菓子食べることとぉ~特技は手先が器用ってこと!よろしくねぇ~!」


……可愛い!
えっ、何この可愛さは。
男子でこんなに可愛い子がいるとか知らなかったんだけど!?
こんな男子に「てへぺろ」をやってもらいたいよぉぉおお!!!


「じゃあ次は…」
《あーあー…在校生に連絡する。今から入学式を始める。2、3年生は今すぐ第1講堂に入場しろ。1年生は廊下に待機しているように。以上だ》

根岸先生が次の人を指名しかけると、放送が入った。
多分学園長だろう。
根岸先生は「残念だけど、次の人からまた今度ね~」と言って私達を並ばせ始めた。