「それじゃあ、僕が斑鳩君の代わりに説明するよ。時間がないから手短にいくけどね。
この学園は一学年に一クラス必要不可欠・唯一無二のクラスがあるんだ」
ほほう。そんな感じの噂は聞いたことはある。この学園にあらゆる天才が集まっているっていう噂。
「色んなジャンル…まあ、文化系とか体育系とか、入る価値のある新入生を集めて、その中から更に厳選する。一種の洗礼場と思ってくれて構わないよ。
方法は教師と新入生との一対一。
新入生が提案した勝負事で対決する。基本なんでもいいんだけど、殺し合いはダメだよ?」
ちょっとまって。今可愛い顔してとんでもない発言していないかこの人。
「で。なんで僕がココにいるかというと、斑鳩君の相手だから。僕が負けと言ったら斑鳩君はSクラスに入室OK!ってこと。分かった?」
薙ちゃんが顰めっ面をして明らかに面倒だという雰囲気を出している。
根岸先生は苦笑いをして、無表情になった。
「君はyesしか出せないんだから。さっさとやろうよ」
まるでその答えが決定している様に。
否定を認めない處か否定を捩じ伏せる様に根岸先生は言った。
「あっ。そうそう。毛利さんの相手は気の毒だけど学園長だよ~。あの人手加減しないから」
先程とは打って変わって気まずそうに話す根岸先生。
「何でも、見るのは飽きたから参加するとか言ってね…」
横暴すぎるよ学園長。暇が嫌いな人に良い人はいないと信じているから、マトモな人ではないと思う。
「それに学園長今日の午前2時から張り切っちゃって。朝眠いとか言ってたんだよね…」
根岸先生がほのぼのとした雰囲気でそう言った。張り切りすぎじゃありません?
午前2時に起きてどうするんです!
「貴様か、小娘。吾輩の相手は」
「あっ、学園ちょ~。3分50秒95遅れましたよ~」
「正確過ぎね?」
相変わらずのほほんとしながら正確に遅刻を指摘する根岸先生。薙ちゃんも思わずツッコミするなんて先生はストップウォッチだね!
「根岸、貴様は逸そストップウォッチにでもなったらどうだ?いい会社教えてやるぞ?」
「あはは、殺されたいんですか~学園ちょ~」
「殺せるもんなら殺してみればよかろう。」
「じゃあ、お言葉に甘えて~」
「ちょ、ばっ、ここは健全な高等学校じゃないんですかぁぁぁぁぁああああ!!!!」
ダサい伊達眼鏡が取れても気にしない。
学園長らしき人と根岸先生の死闘。
叫べばが2人して停止した。
学園長らしき人はこちらに顔を向けた。
明らかに私を見て驚いていた。
そんなに顔が不出来ってか!知ってるわ!
「…お前……楓の妹か?」
「なんでお姉ちゃんの名前を?…ん?」
学園長らしき人をガン見すれば何時ぞやか見た顔。
どこでこの顔みたっけかな?
う~ん…………!
「思い出した!お姉ちゃんの友達で家に来て私にロンダート教えてくれた人だ!」
「やはり小娘、楓の妹か。妹が入るとは聞いていたが、相変わらず破天荒に生活しているのか?」
「破天荒な生活?的、どういうこと?」
「薙ちゃんは気にしなくていいんだ!」
「ああ。尻が青い小僧にはまだ早い話だ。さっさと行け。根岸が首を長くして待っておるぞ?」
薙ちゃんはため息をついて根岸先生の方に歩みだした。だるそうだけどちゃんとやるとか変なとこで生真面目だね~
「邪魔者は消えた。勝負をしようではないか。吾輩が負けと認めれば貴様は合格だ。」
「勝負は私が決めていいんだよね?」
「それが伝統だからな。さぁ、貴様が得意でも不得意でも吾輩は相手をしてやる。」
正直、私の短い人生と学園長の長い人生とでは色々と踏んできた場の数があまりにも違いすぎる。
1対1の対戦ゲームといえば…
「トランプ…」
「成程。ではトランプの何をやるのだ?」
正直トランプゲームの種類が多すぎてどれが一番得意なのかが自分自身で分からない。
大富豪・ブラックジャック・ババ抜き・七並べ・ドボン・神経衰弱
メランコリー
・スピード・クリベッジ・戦争…
……決まった。
「ポーカー。公平でしょ?」
ポーカー。
トランプを使って行うハンドの強さを競うゲーム。
世界三大カードゲームの一つで、心理戦が特徴的。
主にアメリカでプレイされているゲームで、ギャンブルとして行われる事が多い。
プレイヤーは5枚の札で役
ハンド
を作って役の強さを競う。
「…全てが運任せの戦争かと思ったぞ?」
意外といった顔で私を見る学園長。
「別に一番長く付き合ってるゲームだから選んだだけ。意味なんて無い。」
我ながら、冷たく言ってしまったと思った。
意味もなく、唯選んだ。
「…意味も無く、唯流れに乗っているだけだな。」
「何とでも言ってください。ディーラーは学園長でいいですよね?」
「構わん。少し待っていろ。今テーブルを持って来させる。」
…職権乱用反対。
「もっ、もうやだぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!学園長私を殺す気ですよね!?そうですよね!?」
「吾輩に対してイカサマも何も使わないから惨敗するのだ。貴様の姉はポーカーで負けたことはないであろう?」
確かに姉は負けたことがない。イカサマされても、イカサマで返して必ず勝つのだ。
……ん?
「学園長、貴方の負けです」
「負けは貴様の方だろう。吾輩は勝者だ」
「いいえ、負けました。だって、《負けた》と言いましたもん」
「!…してやられたな…」
勝敗を決めるのは相手が「負け」と言えば決して勝負事で負けても勝つのだ。
学園長は勝負事に気を取られて【勝ったが負けたのだ】
せこい?何とでも言えばいいよ。
「私の勝ちですよ。学園長?」
「ああ、負けを認めよう。Sクラスに入室を許可する」
「やったー嬉しくないなー」
「素直に喜べばよかろう。なんだ、ツンデレという奴だったか。ならば仕方ない」
「勝手にツンデレって決めつけないでくれますか!?」
視界の隅で誰かが振り向いた気がするが気にしない。
伊達眼鏡をかけて、どこからともなく現れた黒子さん達に台を持って行かれるのをじーと見つめていたら後ろから肩を叩かれた。
振り向けば、何時もの無表情で薙ちゃんが立っていた。
「い~くは~。数独キツかった~。でも頑張ったから褒めて~」
「あ~…はいはい…」
頭撫でられて嬉しそうに笑う美青年とか可愛いよね。
このギャップがたまらん。
「的は入るの?」
「せこい勝ち方で勝ったからSクラスだって。面倒だよね。薙ちゃんは?」
「………………聞きたい?」
「…どうせ入るんでしょ?」
「うん」
多分薙ちゃんもせこい勝ち方で勝ったのだろう。聞き返した時の間と不敵な笑みがそれを物語っている。
「一緒行こ、的」
「仕方ないなぁ~」
一緒に校舎まで歩き始める。
…その頃の先生′S…
「いや~!楽しかったですね!」
「なに、ただの暇つぶしだ。退屈を紛らわせるだけのものにすぎん」
「にしては、横から見てて、楽しそうにしていましたが?」
にやける根岸に顔をしかめる学園長。
学園長―――彼の名前はライガ・ルンペルシュティルツィヒン。
無駄に長い苗字だ、と言われながら何代も続く学園を持ち、常に頂点に立つ。
そのカリスマ性で敵であろうと誰でも味方に付け、最終的には圧勝。
圧勝と言うより、勝ち負けをせずに勝つ。
「いやぁ~楽しみですね。僕、学園長が負けを認めたの初めて見ました」
「ふん、これで2回目だ」
「えっ!?初耳ですけど!?」
「初耳?まぁ、当たり前だろ。今初めて言った」
「当たり前でしょ!?」
「あー、腹が減った」
「今!?ここで!?入学式どうするんですか!?」
「てきとーに済ませとけ。ライス食いて~」
「あんたは定食でも食ってろ!」
中々に不憫な根岸先生である。
フリーダムなライガは青空の中、空高く飛ぶ燕を見て、何かに想いを馳せる様に目を閉じた。