りんどう珈琲


「ごちそうさまでした。珈琲おいしかったです」

 彼は立ち上がってカウンター越しにマスターにそう言うとにっこり笑った。

「ありがとうございました。このあいだも来てくれましたね。この辺りに住んでいるんですか?」

「はい。だいたい3ヶ月ここにいます。すぐそこの国道で始まった道路工事の仕事でタケオカに来ました。いまは会社が借りてくれている近くの古いアパートに住んでいます。ここに来る前はアビコという町に半年いました」

「竹岡にはなにもないでしょう」

「はい。でも海がありますね。わたしは海のある町に住んだことがないからとても嬉しいです」

「また来てください」

「ありがとうございます。わたしの名前はハサン。パキスタンから来ました。火曜日は工事が休みですから、また来ます。平日も5時には仕事は終わります。わたしは珈琲のことはぜんぜん詳しくないけど、マスターの淹れる珈琲はとてもおいしいです」

「それはよかった」

 そういうとマスターはわたしのこともハサンに紹介してくれる。

「ヒイラギ。不思議な名前ね。どういう意味ですか」

「柊は花です。ギザギザの葉っぱがついた、白い花です」

「素敵ですね。ヒイラギ、また会いましょう」