「お泊まりなのかなあ・・・・」
 
 久美子は、食欲の回復にまかせて上等な寿司を一人摘んではニヤリとしていた。 
 翌日も帰宅しなかった義也は、月曜日の早朝になって慌ただしく帰ってくると、大きなバッグに何やら詰め込み始めたと思うと、いつもの安物のスーツに着替えバッグと一緒に出社して行った。
 久美子は、その一部始終の間、一言も声を掛けることは無かった。 
 次の金曜日の夜、久しぶりに帰宅して来た義也は、改まった顔をして「話がある」と言った。 

 久美子は、「待ってました」とばかりに心を踊らせた。 

「大事な話があるんだ。面と向かっては言いにくいから、ちょっとドライブでもしようか?」

 久美子は、「分かった」と即答した。 

 車は街中を抜け、街灯も無い真っ暗な田園地帯へと出た。 

「この辺りでいいかな」

 義也は独り言のように言った。それを聞いて、久美子は「いよいよか」とソワソワする気持ちを押さえ切れずにいた。 

「で、何の話。早く言ってしまいなさいよ」

 久美子は急かした。 

 義也は、茶畑の間の小道に車を停めるとヘッドライトを消した。 


「話とは・・・・これだ」