土曜日の朝だというのに電車は混んでいた。座れる席も無さそうだし、ドア付近の吊り革を確保すると、揺れる電車に合わせて体重移動を繰り返した。四つ目の駅が隣の隣の市だ。義也はドアが開くと一番に下車した。 

 駅の前はロータリ―になっていた。義也は、何処もかしこも同じなんだと思った。ロータリ―の先に交差点が見えた。その角にはショッピングセンターらしきものが建っている。その先は遠くに格好の悪い山が見えるだけで何も無さそうだ。 
 義也は、交差点で左右を眺めて、右に行くことを決めた。まだ開いてない古ぼけた数軒の店先を過ぎると住宅街になった。家と家が微妙に隣接した昔ながらの小さな家ばかりだ。少しだけ歩いてこの先なにも無ければ引き返そう。 
 義也は、板を張り巡らせた塀の脇をのんびりと歩いた。 

「もう来るな」

 朝っぱらから怒鳴り声だ。義也は何事かと思い、辺りを見回した。すると、一軒先の民家の塀から一人の男が飛び出して来て義也の目前で派手に転んだのだ。