「ちょっと出掛けてくるよ」

 土曜日の朝、義也は外出する意志を久美子に伝えた。久美子は、出掛ける先も理由も聞かずに義也を送り出した。玄関で手を振ったが、義也は返して来なかった。それどころか、いつもなら私の車を使うはずが、今日に限っては徒歩で駅方向に歩いて行ったのだ。 
 義也は、駅に着いた。 

「さて、これから何処に行こうか」

 早朝から家を出たのは良いが、ここに来て行く当てが無いことに初めて気付き、電車の路線図を見上げては溜め息をついた。

「仕方がない。散歩するつもりで隣の市内でも行ってみるか」

 義也は券売機に千円札を入れ、ボタンを押した。 
「あれ?」

 出てきた切符を手に取り首を傾げた。 

「押し間違えたか?」

 券売機のボタンを見たが、押し間違えたかどうかの記憶は無かった。 

 まあ、何れにせよ隣もその隣も同じようなものだ。義也はさほど後悔もせずにホームへと降りていった。