擦りガラスの引き戸を半分程開き中を覗いた。陽当たりの悪い山の中の建物だからか、室内の空気が湿っぽい匂いで鼻を突いてきた。私は、遠慮がちな細い声で「ごめんください」と言ってみた。応答が無い。もう一度、ごめんくだ....奥のほうから廊下を踏むような軋む音が聞こえた。私は思わず開いた口を手の平で押さえた。軋む音が次第に近づいて来るのが分かる。私は、覗かせていた頭を少しばかり引っ込めた。 軋む音は突然に姿を現した。その瞬間、私の心臓は内部から強く叩かれたように弾けた。 

「どなただ?」

 背の低い初老の女性の突然の問い掛けに、私は返事に詰まった。 

「どうしたのだ。そんなに目を丸くして。何か脅かしてしまったのだろうか。それならば申し訳ない」

 初老の女性は顔の前に右手の手の平を立てた。

「あ、いいえ・・・とんでも無いです」

 こんな返事しか出来なかった。 

「何かご用か?」

 初老の女性は、心配顔で私に問い掛けた。私は、サイトでここを見つけた旨を説明した。 

「サイトとは何だね?」

 一通りの説明を聞いた初老の女性は首を捻った。  私はサイトとは何かを説明しようとしたが、初老の女性はその話を遮るかのように「まあ、とにかく上がりなさい」と言い、私に背を向けてゆっくりと歩きだした。私は慌てて靴を脱ぎ、廊下に上がろとしたが、開けっ放しのままの引き戸のことを思い出し、まだ新し目の自分の靴を無惨に踏みつけて戸を閉めた。廊下は室内の空気と同じくひんやりとしたものであった。