そうすると、不思議な事を思い出した。私があの紙に書いた名前は、指名手配されている殺人犯人の名前で、今さっき犯行を行ったばかりの犯人では無い。ということは、これは偶々な事なのか。私は書いた名前の記憶を呼び戻してみた。 
 高藤直也、確かそうだったはずだ。 

「あのう・・・・」

「何だ?」

「高藤直也さんでは無いですよね?」

 私は「違う」という返事を聞きたくて聞いてみた。 
「だとしたら、何だ?」

「えっ?」

 それは、期待を裏切る返事だった。いったいどういう事?あの名前の犯人がどうして私と一緒に居るのか。 
 私はそれ以上の事を聞くのが無性に怖くなり、ずっと口を接ぐんだままとなった。 
 車は山を一つ越えると、見渡しの悪い川の畔に着いた。 

「金を出せ」

 私は言われるがままにお金を渡した。 

「お前、一人暮らしか?」
「ええ、まあ・・・・」

 それを聞いた男はニヤリとした。 
 
 しまった。とんでも無いことを口走った、慌てて家族と一緒だと訂正したが、男は聞く耳を持たなかった。