「しゅ、主任……?」


加奈子のらしからぬ行動と不意打ちに、大輔はドギマギした。しかも、加奈子の小さくはない胸の膨らみが、大輔の腕に触れている。


「怒っちゃイヤ……」

「お、怒ってるんじゃないんです。ただ……」

「ん?」

「僕は主任との事を隠したくないんです。こそこそするのは嫌なんです」

「そうなの? ありがとう。でもね、会社で変な噂が立ったら大変でしょ?」

「そんなの、僕は平気です。主任は僕と噂になるのが嫌なんですか?」

「ううん、そういう事じゃないの。もしそんな噂が立ったら、あなたも私も仕事がしづらくなるでしょ? 想像してみて?」

「それは……」


大輔はしばし考える仕種をした。


「確かにそうかも……」

「でしょ? だから、今日の事は二人だけの秘密にしましょう? ね?」

「分かりました」

「よかった。分かってくれて……」


加奈子はニッコリ微笑みながら、大輔の腕に絡めた自分のそれに、更にぎゅーっと力を入れるのだった。



帰りの車中。加奈子は自分でも意外であり、思い出すと顔が熱くなるほど恥ずかしい今日の自分の行動について考えてみた。


ひとつには、何としても今日の事を美由紀に知られたくないという思い、と言うより目的があった。それは事実だ。しかしそれだけなら、あんな甘えるような行動は必要なかったはず。


加奈子は、大輔が怒った(と思った)時、彼の機嫌を取りたいと思ったのだが、それはなぜなのか。別に大輔に弱みがあるわけではないのに……


(あ、それは違うわ。私、きっと嶋田君に弱みを感じてたんだ。彼に嫌われたくない、という弱みを。それって、もしかして……)