素敵な上司とキュートな部下

そして、異動当日の朝。

加奈子はあまり着馴れていないビジネススーツで身を固め、神妙な顔つきで香川の横に立っていた。立ち上がった、在籍中のおよそ20人ほどの営業部員の視線を、一身に浴びながら。


「えー、今日から書籍課の主任として迎える事になった岩崎君だ。岩崎君、簡単でいいんで一言いいかな?」

「あ、はい。岩崎加奈子です。営業の経験はまったく無いのですが、みなさんの足を引っ張らないよう、一日も早く仕事を覚えたいと思っています。ご指導のほど、よろしくお願い致します」


短いとは言え、何度も考え、復唱してきた挨拶の言葉を、つっかえる事なく言い終えた加奈子は、ホッとしながらみんなに向かって頭を下げた。


まばらな拍手が加奈子の耳に届いたが、笑顔で手を叩いていたのは、僅かに二人だけという事に、加奈子は気付いていなかった。

その二人とは、書籍課で社内きってのモテ男の嶋田大輔と、同じく書籍課で、今年入社したばかりの若い桐谷美由紀だった。