昨夜チェックして修正箇所に赤を入れた月報の仮原稿を、加奈子は今朝一番に西村へ手渡していた。それなのに、なぜまた同じ事を西村は嶋田に依頼するのか、ちっとも解せない加奈子だった。


「それって、昨夜の内に主任がされてましたよね?」


加奈子の疑問を代弁するかのように、大輔の隣の桐谷が西村に言ってくれた。


「え、そうなんですか?」


驚いた顔で大輔から聞かれ、「うん」と加奈子は頷いた。


「そうだけどさ、こんな“素人”じゃ頼りなくて……」


そう言って西村は、加奈子のことを横目で睨んだ。


「もし月報にミスがあったら大事(おおごと)でしょ? だから嶋田君にもう一度お願いしたいのよ。締めまでまだ時間あるしさ」

「そんなのおかしいです。だったら、最初から今日嶋田先輩に頼めばよかったじゃないですか?」

「嶋田君は今日も出張でいないと思ったのよ」

「それも変です。みんなの予定は共用の予定表を見れば分かるはずです」

「あんた、生意気ね。新人のくせに……」


西村と桐谷が睨み合うと、大輔はそこに割って入るようにして、


「そういう事なら、コレはお返しします」


と言って月報の仮原稿を西村へ突っ返した。ところが、


「いいえ、チェックして頂戴。でないと、私が安心できないから」

「そんな……。課長?」


大輔は、意見を求めるように課長の小林に声を掛けたが、小林は大輔達から目を逸らしてしまった。さも“面倒な事に俺を巻き込むな”と言わんばかりの態度だ。


(昨夜、あんなに頑張ったのは何だったんだろう……)


そう思ったら情けなくなり、涙が出て来て加奈子は席を立った。そして足早に職場から出て行った。泣いた顔を誰にも見られたくなかったから。