(こんな時間に誰だろう……)


加奈子は、ビクビクしながら職場の入り口を見つめた。もし変な人だったらどうしよう、と思いながら。


しかし現れたのは、白いワイシャツを腕まくりし、手に大きめのバッグを提げた香川だった。


「ぶ、部長……?」

「岩崎君、まだいたのかい?」

「部長さんこそ、どうしたんですか? 今日は出張でしたよね?」

「ああ、今帰って来たところなんだ。携帯のバッテリーが切れちゃってね。会社のメールをそっちに転送してるんだが、それを見られなくなってしまってね。大事なメールが来てたらと思うと気がきじゃなくて、社に寄る事にしたんだよ」

「あ、そうなんですね」

「まさか君が残ってるとは思わなかったよ。そんなに忙しいのかい?」

「ええ、ちょっと……」


香川は自分の席に着くと、パソコンの電源を入れた。